融通手形の恐ろしさ(1)
カテゴリ:銀行融資
コラム「中小企業と金融機関」粉飾決算編
今回のコラムは「融通手形の恐ろしさ」です。
融通手形による連鎖倒産の危険性
資金繰りが厳しくなった企業が、知り合いの会社に頼み込んで、実際の商取引に基づかないのに手形を振り出してもらい、その手形を割り引くことにより資金調達をする、このときに振り出される手形を「融通手形」と言います。
例えば、資金繰りが厳しいA社の社長は知り合いの社長に頼み、その知り合いの社長が経営するB社で500万円の手形を3月20日に振り出してもらいます。
手形の支払日は3ヵ月後の6月30日だとします。
手形を受け取ったA社は、それを金融機関で手形割引を行って500万円調達します。
実質的には、A社はB社に手形を振り出してもらうことにより融資を受けたのと同じことになります。
しかし手形の支払日6月30日には決済となるため、B社は500万円を用意しなければなりません。
当然、A社からB社に500万円入れてもらって、B社はそのお金で手形を決済することになります。
しかし6月30日にA社が500万円用意できない場合、B社は手形が決済できないと不渡りになるため、B社自身で500万円を用意しなければなりません。
融通手形としてB社に手形を振り出してもらわなければならない状況だったA社ですから、そうなってしまう可能性は高いわけです。
こう考えると、知り合いからいくら頼み込まれようと、融通手形を振り出してしまうのは危険な行為です。
A社が手形決済日にB社に500万円を入れることができない場合によく行われるのは、B社から再度、融通手形を振り出してもらって、それを割引することです。
A社は事業が赤字で、その赤字を、融通手形による手形割引で資金調達し、補填していくことを続けていけば、融通手形の金額はどんどん膨らみ、B社が振り出している手形の金額はどんどん大きくなります。
そしていつかは手形割引が大きくなり過ぎてしまい、限界が来て、A社は破綻し、手形決済ができないB社も道連れに破綻してしまうことになります。
手形が招く不渡り
以前、紙工製品卸売業の会社が、私の会社に相談に来られました。年商5億円のその会社は、知人の会社に頼まれ、融通手形をつい振り出してしまいました。
そして3年後、支払手形の残高は1億5,000万円まで膨らんでしまいました。
手形の怖いところは、それが支払期日に決済できなかったら、不渡りになることです。
1度でも不渡りになると、不渡報告に掲載され、他の銀行にも知れ渡ることになり、要警戒企業となります。
6ヵ月以内に2度の不渡りとなると、すべての銀行で当座預金が使えなくなり、融資も受けられなくなります。
これを銀行取引停止処分と言います。
この銀行取引停止処分をきっかけに、倒産してしまう企業は多いものです。
借入金の延滞や買掛金の未払いであれば、銀行や買掛先と交渉していけばよいのですが、支払手形の不渡りは決定的なダメージとなります。
そのため、融通手形により支払手形の金額が膨らんでしまった企業は、とても厳しい状況に追い込まれてしまいます。
またそういう企業は、得てして業況は問題ない企業が多いものです。
知人の経営者からつい頼まれて、融通手形を振り出してあげた、それが自分の会社を苦しめることになるのです。
当座預金を持ち、銀行から手形手帳をもらい、手形を振り出すことができる企業は、十分にお気をつけ下さい。
また、手形の振り出しを経理部長などに任せている企業は、社長の知らないところで、経理部長が融通手形を振り出しているかもしれません。
実際にそのような企業からの相談を受けたこともあります。
さらに経理部長が、融通手形を振り出していた相手から、割り引いて得た金額の何割かを謝礼としてこっそりともらっている場合もあります。
経理部長などに手形の振り出しを任せている会社は十分に注意して下さい。